坊主実体無し
カーテンの掛かった縁側から川を挟んで向こう岸の風景を見ていた。
頭を下げる二人の大人の前で坊主が踊っている。
その坊主が泣きながらお経を唱え始めた。
すると縁側のカーテンと窓が全開のまま、
列車が走り出すように風景が流れていった。
追い越し症候群
ボロボロの扉に室内は階段だけの部屋に引越す。
明け方の空から巨大缶ペンケースに入った家具がやってくる。
缶ペンケースの柄が黒地にドラキュラなのが気に入らない。
とろけたケーキにろうそくを立てて
窓の外の集団下校を見つめる。
さあ、ここから通うのだ。
その異物
朝になってもずっとパーテンションに囲まれたままだった。
一日のパーテンション量が現実と上手くかみ合わない。
誰かがそれを溜め込んでいる。
パーテンションにたくさんの四角を書き込んで、
扉が出来るのを待っていたが、
扉が出来てもそこからは出ないつもりだ。
遠くにある国境をパーテンションで仕切ることが
今持っているただ一つの目的だった。
キツネのお面よりも速く
キツネのお面展覧会会場の隅で、
おまけ程度の「矢印看板の未来展」も開催されていた。
大賞を受賞した作品はこんぶを手で千切った矢印だった。
受賞の理由は「未来にこんぶという発想は我々の盲点だった!」
ということ。
「我々審査員は目の前の、新しい矢印ということばかりに
気を取られて、矢印の本質をすっかり忘れていた!」
なんて言いながら審査員の人たちはこんぶの矢印に感動したのだろうか。
こんぶに未来を託す矢印看板の世界が永遠でありますように。
うずくまったパーティ
パーティが終わって、山に登った。
山は全て人の頭でできているのだから
登りにくい山の人は坊主をやめて髪を伸ばすべきだ。
どうして山は坊主と決まっているのだろう。
そんな決まりはほんの50年前まではなかったはずだ。
私の頭の上に人の気配がする。
誰かのブラックボックス
ライブを見ていたら、
頭上左からカセットテープ大のものが飛んできた。
右側の空中にカチっとはまり、そこに留まる。
2時間のうちに何度も同じことが起こった。
右側に溜まったそれは安定して在り続ける。
ポケットにつっこんだまま右手を握ると
それを掴んだ感触が確かにあった。